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『十二階のカムパネルラ』終演。 [劇作家の時間]

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おそらく僕は、我が宇宙をゆく銀河鉄道に一人乗っていて、
必死にいま、『十二階のカムパネルラ』という駅を振り返って、
次第に小さくなってゆくその場所を、窓にへばりついて目に焼きつけようとしているのでしょうか。


この記事を書いてしまうと、いよいよお別れの汽笛が鳴ってしまいそうなのですが、
この公演をご覧下さった皆さん、支えて下さった皆さんへしっかりとお礼を述べたいので、
少し長めになってしまうかも知れませんが、お付き合いください。



この作品はきっと2014年の冬から始まっています。
『サンタクロース・ドットコム!』が終わった後、その公演にも出演してくれた高橋茉琴と、
「『葡萄酒いろのミストラル』に続く、賢治さんのお話を書きたいんだ」という話をして、
「その時には高瀬露役をやってほしい」ということを高橋に伝えた気がします。
まさかその時には高瀬露さんが主人公のお話になるとは思っていませんでしたが、
少なくとも僕の頭の中では、この作品はその時から始まっていました。

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その後、浅草に素敵な劇場が建ち、そこが浅草十二階跡の至近距離であることを知り、
頭の中で「浅草十二階」「大正浪漫」「宮沢賢治さん」……「高瀬露さん」という式が
次第に浮かび上がってきました。
となると、劇場を押さえる前に、「高瀬露を確保せねば!!」ということで(笑)、
高橋茉琴に即オファー。彼女も2014年冬に交わしたやりとりを
はっきりと覚えていてくれて、無事快諾をいただきました。


年が明けて情報解禁した後、浅草十二階の遺構が発掘されたことがニュースになり、
その現場が浅草九劇から数十歩の位置であることが分かって鳥肌が立ちました。
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同じころ、出演者オーディションを開催。
劇団メンバーを除く今回の俳優陣のほとんどは、そこで出会った人たち。
このオーディションですでに「この面々で集まれば、そのまま公演を打てるんじゃない??」
という感触があったのをはっきりと覚えています。
初対面で、オーディションという場でありながら、とても柔らかな空気に包まれていました。

そこからしばらくは、孤独な戦いが始まります。「脚本執筆」です。
モチーフやキーワードを決めて、タイトルを決めて、出演者が決まって、
だからといって脚本全体がパッパと組み上がるわけもなく、
まるで暗闇の泥田をゆくような春、夏、秋でした。




5月には岩手の花巻へ。
作品の芽が果たして自分のどこにあるのか、ひたすらそれを探す旅。


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あとで写真を見ると、爽やかな初夏の青空の花巻でしたが、
五里霧中の僕にとっては、賢治作品のようにどんより曇りがちな印象の旅でした。
そのころ劇団では、目前に迫ったイベントに皆全力投球で、
一人違うことをしている僕が、とても孤立して感じられ、胸が裂けそうな時期もありました。
今思えば、僕自身のそうした心の叫びが、この作品に繋がっていった気もします。



6月には、ラストシーンの「絵」だけが浮かびました。

「悲しみに覆われた今の僕のような、そんな人のもとにも、サンタクロースがやってくる。」
そんな歌があったじゃないか。
岡村孝子さんのクリスマスソング、『世界中メリークリスマス』です。


もう、すぐに岡村孝子さんにお伺いを立てました。


こういう時の行動力は自分でも驚きます。さそり座の人物の特徴でよく書かれます(笑)
岡村孝子さんといえば、押しも押されぬ大シンガーソングライター。
正直どうかなあと思っていましたが、こちらも即楽曲提供のご快諾をいただきました。
これで、ようやく物語の終点が定まってきました。
あとはこの終点に向かって、どのような物語を紡ぐのか。
かなり進んだ実感がありつつも、まだまだ壮大過ぎる課題が残っていました。


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岡村孝子さんにも、多大なるご協力をいただきました。ありがとうございました。



7月はローカル鉄道演劇『銚電スリーナイン』の公演があり、
気付いた時には、真夏にワープしていました。愕然。
ぎんぎら陽射しが照りつける日々、『世界中メリークリスマス』をヘビーローテーション。
僕の毛穴からこの曲が聴こえてきそうなくらいにずっと聴いていました。

「どうすれば、この物語の終点で舞台と客席がひとつになれるか」。

そればかり考えました。




公演稽古の足音が近づいてきた頃、パンフレット写真の撮影がありました。

僕は相変わらず、暗闇の泥田を歩んでいて、きっと浮かない顔をしていたと思います。
そんなどうしようもない僕の前に、、その人は舞い降りてきました。


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高瀬露さんが現世に舞い降りてきたような瞬間。

見た目は高橋茉琴かも知れませんが、でも、僕のこころには、
高瀬露さんが静かに僕を励ますために、
周りに気づかれぬよう、そっと舞い降りてきた、
そんなふうに感じた瞬間の写真です。
その日から、毎晩脚本に向き合う前には必ず、
岡村孝子さんの曲を数回聴き、この写真を見て、自分と戦い続けました。
会いたい、会いたい、辿り着きたい、会いたい、
ぬかるんだ泥田を進むには、ひたすらそれを思うしかありません。
その苦しみ、悲しみ、もしかするとそういった気持ちが、
そのまま脚本に焼きついてしまったかも知れません。
書いたシーンを読み返すと、ひゅうひゅうと秋風のような淋しさを感じました。




10月、公演稽古が始まりました。
ここからは、ひなたのような毎日です。

本来なら脚本作業と稽古の同時進行の過酷な日々のはずなのですが、
14人の俳優陣が醸し出す空気が、あまりにも、あまりにもあたたかくて、
物語の後半の執筆作業は、彼らのオーラに導かれて進んでいった気がします。
絵本作家なかむらしんいちろうさんによる、ものすごいイラストのリーフレットも完成、
このイラストをもとにした舞台美術の打ち合わせもずんずんと進んでいきました。
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ダンサー森川次朗さんとの4年ぶりコラボのダンスシーンも、
僕の心を大いに奮い立たせてくれる壮大な場面として出来上がってきて、
さらにはパンフレット撮影のカメラマン渡辺慎一さんによる写真も出来上がってきて、
作業の合い間に大好きな俳優陣の顔を毎夜しげしげと見ながら、
こうして、僕はいっぱいの宝物たちに「がんばれ、がんばれ」と言われながら、
脚本の後半、終盤を24時間テレビのランナーのように走っていきました。

次朗さん同様、4年ぶりにご一緒する舞台スタッフ陣の
キューブリックの勝手知ったる百戦錬磨のワークには、
演出家の僕はもはや、にやけるしかありませんでしたよ。
僕はただただ圧倒的な舞台美術と大音響と光の世界に励まされていました。

そして、お客さんに対するおもてなしという劇団の最前線を担ってくれた、
奥山静香と、彼女を強力に支えてくれた栗原さん、酒井さんにはとにかく脱帽です。
グッズ製作では、エキスパートの穂苅さんに今回もお世話になりました、
お客さんがお芝居を安心して堪能するには、
ロビーや舞台裏のスタッフのみんなの優しさがなければ、絶対に有り得ないことなのです。


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劇団メンバーの片山耀将、谷口礼子、千田剛士、榎本悟。
家屋が家屋として存在するために必要な柱や梁があるように、
各自の課題を盛り込みながら、柱や梁の役目を担ってもらいました。
初出演の客演さんを含めて、14人のキャストが輝くことができたのは、
劇団メンバーのこの4人が活きたからだと思っています。
今回裏方にまわってくれたメンバーも含め、
あらためて、かけがえのないキューブリック俳優陣の存在の大きさを感じました。


「電信柱のような男」を演じてくれた千葉太陽くん。
ずっとキューブリックに出たいと言ってくれていたので、
賢治さんの世界観が一番色濃く反映されている役をお願いしたいな、と考えました。
「電信柱のように」なってもらうため、大変な仕掛けが施されることになってしまい、
稽古から本番まで、本当にご苦労されたと思いますが、
見事に賢治さんの世界から飛び出してきてくれました。

賢治さんの作品の世界といえば、童話「双子の星」に登場する、
「チュンセ童子」と「ポウセ童子」を演じてくれた20歳コンビ。
金田理佐子ちゃんも藤井優海ちゃんも、20歳とは思えないほど、
視界が広く、人のことが大好きで、この先どんな道を進むにしても、
きっと周りを引き立て、周りに愛される人になるに違いないと思います。
けど、どんな女優さんに成長してゆくのかをやっぱり見届けたいです。
金田さんの身体能力、藤井さんの幸福ふりまくオーラは、ほんとうに稀有ですから。



なにしろ、物語の本線が主人公の苦しみ、切なさ、悲しさ。
その本線と一線を画す「陽」の存在が非常に重要で、
映画の撮影現場の人々には、そういう役割を担ってもらいました。
「南部監督」を演じてくれた佐藤沙予さん。
佐藤さんには、撮影現場の太陽のような存在になってもらいました。
佐藤さん自身、お日さまのような優しさが滲む人。
これから先、もっともっと、その魅力が増していくのだと思います。

賢治の最大の理解者・藤原嘉藤治を演じる俳優「前沢」役の今氏瑛太くん。
気付けば、嘉藤治さんのような包容力でカムパネルラチームの
ムードメーカーになってくれていました。
全方位にアンテナを張りつづける今氏くんの思いやりは、
しっかりと舞台に乗り、作品の優しさに繋がっていたと思います。

きりの後輩女優「ありす」を演じてくれた坂本実紅ちゃん。
書いている時はそのつもりはありませんでしたが、
おそらく、この役は当て書きだったのだろうと思います。
一見きゃぴきゃぴしているけれど、本当はとても冷静に周りを見ていて、
自分自身の役割を常に分析している女の子。
きっと、こういう女の子は多いんだろうと思います。
年上の世代からはいろんなことを言われるけど、みんな本当はとても真面目。
けど、周りと調和するためにその真面目を奥にしまい込む。
坂本さんを見ていると、その奥ゆかしさを感じます。
だから、「ありす」が生まれた気がします。
一日一日、目まぐるしく変化し続けてゆく女優さん、目が離せません。

「ありす」と同じアンサンブルで、撮影現場の外野手として、
空間を盛り上げ続けてくれたマネージャー「宮守」役の鳥居きららさん。
本人の冷静さと演技のスパーク加減のギャップは病みつきになります。
稽古終盤からは、良くも悪くも演出の僕までもがファンになってしまいました。
シアターキューブリックが大切にしている、演劇における「音楽性」を、
見事なまでにリズミカルかつメロディアスに体現してくれました。

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4年ぶりに出てくれた「あおい」役の眞実ちゃん。
長いブランクがあったとはとても思えない、彼女の魂に触れることができました。
あおいの姿を借り、高瀬露を現代の世界へと導いた「大畠ヤス」さんの心情を、
深く深く見つめて、本番直前まで台本の活字の奥を、
穴が開くんじゃないかってくらいに覗き込んでいました。
実は、悩み続ける彼女のその姿が、とても美しかったんです。
そして、その美しさは、しっかりと舞台上の「ヤス」さんとして輝いてくれました。
この役をお願いして、本当によかったと思っています。
これからの飛躍が楽しみで仕方ありません。

高瀬露を演じる女優「小岩井きり」を演じてくれた品川ともみちゃん。
この人の笑顔は、本当にやわらかくて、
僕は冷静にダメ出しをしているのに、
こちらの目の奥を覗き込むようにしながら、にこにこと真摯に聴いているのです。
なんという柔らかな空気を纏っているんでしょう。笑いそうになります。
その柔らかな空気をもっと強大な武器にしてほしいと思い、
初タッグながら僕は格闘しました。品川さんも戦いつづけました。
僕はまた必ず戦いを挑むと思います。
あの柔らかな魅力は忘れられません。
この魅力は、今よりももっともっと武器になるはずですから。


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最後に。
主人公の高瀬露役を演じ尽くしてくれた高橋茉琴。

「宇宙探査機はやぶさが真っ赤な火だるまになって地球に戻ってきた…」、
僕は、なぜかその光景を思いながら、舞台上で燃え続ける高橋を見ていました。

もはや、何を書いたらよいのか見当がつきません。
高橋がいなければ、この作品は始まっていませんし、
僕が脚本を生み出して苦悶している最中も、
要所要所で猫みたいに、こちらの様子をさりげなく見ていて、
そうした眼差しを感じながら出来上がった高瀬露の物語だから、
彼女は燃え尽きるまで舞台上で生き切ってくれたのだと思います。

性別も違うし、年齢も近くはないし、交流だって大したことはないけれど、
どうしてここまで通じ合えるのか、相変わらず謎過ぎる存在です。

僕が劇作家人生の集大成のつもりで書き上げた物語を、
「これまでの役者人生の集大成」と綴ってくれた高橋の文字を見たときの
胸に込み上げてきた苦しさを、僕はきっと一生忘れません。



随分とだらだらと綴ってしまいましたが、これでもまったく語れていません。
それくらいにいろいろなことがありすぎたチームでした。

僕の目には見えないチカラもたくさんたくさん感じました。
とてもあたたかなパワーを感じました。守られていると感じました。
だから最後までこの応援に応えないといけないと思いました。
仲間もきっと同じように思っていたと思います。


ここまで綴ってきた文章を、いったいどのように締めくくればよいのか、
まだちょっとよく分かりません。

近いうちに、もう一度花巻へ行って、
賢治さんや露さんに、この公演のお話をしに行こうと思っています。
その時には、きっとその先の道が見えてきそうな気がします。


そして。

今公演のメインテーマ曲『世界中メリークリスマス』の一節、

「たったひとつだけ、願い叶う。サンタクロースがやって来る。」


これはほんとうなんだとおもいました。



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みなさん、ほんとうにありがとうございました。



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