舞い降りた瞬間 [劇作家の時間]
『十二階のカムパネルラ』本番を一週間後に控え、稽古もいよいよ佳境。
今週からは戦場をスタジオへ移し、より劇場に近い環境で詰めの格闘をしています。
今回の作品は、宮沢賢治さんの世界観をモチーフにしつつ、
賢治さん周辺の人物たちに焦点をあてたクリスマスファンタジー。
ファンタジーと標榜しながらも、実在の人物が登場します。
高橋茉琴演じる主人公の高瀬露(たかせつゆ)さんもその一人。
シアターキューブリックでは、これまでも戦国時代の作品をはじめ、
実在の人物が登場する物語をいくつも上演してきました。
関ケ原での武将隊のお仕事では、俳優たちとともに長期赴任して、
古戦場を舞台に、地域振興とエンターテインメントを掛け合わせた活動を行いました。
ゆかりの場所を足で歩き、肌で感じて、取材を重ね、
墓所が分かる方に関してはお墓にもご挨拶に行く、
というのは僕の創作活動の基本中の基本。
今回もあらためて岩手県の花巻へ行き、
自分の細胞に作品の萌芽を埋め込むべく歩きまわりました。
作品にどれだけ魂を込められるか。
自身がどれだけ実在した方々の代弁者たり得るか。
娯楽であると同時に、演劇は奉納でもあります。
代弁せんとする心、一度もお会いしたこともない彼らに寄り添う心。
この心を磨き上げることが稽古場での大きなミッションのひとつです。
集中稽古4日目の今日、作品中の重要なシーンで、
遂に作家・演出家の手を離れ、羽ばたいた瞬間がありました。
俳優たちが目に見えない糸をさがして、さがして、
初めてその糸を手繰り寄せた瞬間を目撃しました。
長く作品づくりをしてきましたが、幾度もあることではありません。
なんとも言えぬ、しあわせな、であるのに、ひどく淋しい、
大きな宝の獲得と喪失を同時に味わう、不思議な瞬間です。
目に見えぬ糸を手繰り寄せることができる俳優は、
きまってガラスの器のように透明で、
演技に関するダメ出しの時間も、僕自身、他者と言葉を交わすというよりも、
しばしば自問自答をしているような感覚にとらわれます。
透明なこころで作品に身を委ねる覚悟が据わっていればこそ、
今度は劇場でその俳優の演技を観た観客と、
ふたたび目に見えぬ糸で繋がることができる、
「演劇の奇跡」とはそういうことだと信じ続けてきました。
思えば、今作品のメインテーマ音楽『世界中メリークリスマス』のアーティスト、
岡村孝子さんの音楽や詞もまた、その透明なこころが、
多くの人のこころと共鳴し、僕もそこへ辿りついた、そんな感覚があります。
その音楽から作品イメージを膨らませた『十二階のカムパネルラ』。
脚本を書き上げた今となっては、残り僅かな日々を演出家として、
いかに透明なこころで「人間の真理」に挑めるかどうか、
それが僕の唯一の役割だと考えています。
自覚的、無自覚的問わず、さまざまな人間の美醜が溢れた稽古場です。
人間たちの「ほんとう」の姿を、できるだけかき集め、
そして一つの作品として投映させたいと思っています。
浅草の劇場にて、皆様のご来場をお待ちしております。
********公演情報********
シアターキューブリック 2018クリスマス公演
『十二階のカムパネルラ』
作・演出 緑川憲仁
♪メインテーマ 岡村孝子「世界中メリークリスマス」
http://qublic.net/12kai/
2018年11月21日(水)~25日(日)
会場 浅草九劇
宮沢賢治の代表作のひとつ『銀河鉄道の夜』は、
もう二度と会えない友、カムパネルラをめぐる心の冒険物語。
もしも、そのカムパネルラが賢治だったとしたら......。
大正から昭和にかけての賢治の故郷・花巻と、
浅草十二階と呼ばれた巨塔そびえる浅草を舞台に繰り広げられる、
大正浪漫躍るクリスマスファンタジー。
役者群
高橋茉琴 片山耀将 谷口礼子 千田剛士 榎本悟
眞実 今氏瑛太 金田理佐子 坂本実紅 佐藤沙予
品川ともみ 千葉太陽 鳥居きらら 藤井優海
上演時刻
21日(水)19:30
22日(木)19:30
23日(金・祝)14:00/19:00
24日(土)14:00/19:00
25日(日)13:00/17:00
※開場は開演の30分前です。
※上演時間は約1時間50分です。
観覧料
4,500円(税込・全席指定)
当日 4,800円
学生(大学・専門学校生以下) 2,500円 ※要学生証
※未就学児の観劇はできません。
会場
浅草九劇 <東京都台東区浅草2-16-2 2階>
つくばエクスプレス「浅草駅」徒歩3分
東京メトロ銀座線、東武スカイツリーライン「浅草駅」徒歩10分
東京メトロ銀座線「田原町駅」徒歩10分
都営浅草線「浅草駅」徒歩13分
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